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◇ 夏目漱石全集10「小品 評論 初期の文章」

小品の中で「文鳥」「夢十夜」「永日小品」「硝子戸の中」は蔵書でもあるし、
昔は何度か読み返した記憶があるので飛ばそうかと思ったが、久々なので
結局全部読んだ。なつかしかった。
でも「倫敦塔」も「幻影の盾」も2巻に入ってるのに「夢十夜」が10巻に入ってるのは
なんで?と思った。

「夢十夜」が好きなのよねー。特に一夜が。イメージがものすごくきれい。
これ、今どきのアニメ技術で奇麗に仕上げたら、5分10分の奇麗な作品になるだろうなあ。
「夜は短し恋せよ乙女」あたりのキャラデザでいくのか。
もう少しアニメ絵に寄せるのか。
ごく普通の奇麗な作品にするのはそれほど難易度は高くないと思う。
でも、わたしなどの思いも及ばない、何か一つ二つとびぬけたアイディアを入れられたら、
素晴らしい作品になると思うんだ。

だが十夜のドラマ性にだいぶばらつきがあるのよね。
一夜は文句なく作品性がある。
二夜(座禅の話)は、それほどまとまりがないけど、緊張感があるから
場面として作ることは出来ると思う。
三夜「背負った子供」は文句なし。
四夜「蛇になる」も結論はないけど不思議な雰囲気で作品になると思う。

五夜「馬を走らせる女」がなあ……。これが弱い気がするのよね。
基本的なイメージは美しいんだが、それを絵に出来ない気がする。絵で描ける部分は弱い。
台詞を補って、説明すればそれなりにまとまるのか?ドラマ性はある。
でもなあ。あんまり説明しても……という気がするしなあ。

六夜「運慶」も場面として作れる。ただ最後の納得感が客任せで頼りないか。
七夜「遠ざかる船」も弱いなあ。シュール系としては作れるだろうが……
八夜「床屋」も弱いねえ。これもシュール系としては作れるが。ぽかんとした。
九夜「お百度」これはいける気がする。夢にしても描写が細かいけど、この描写通りに
絵を作って欲しい。最後の処理が少し難しいか……

問題は十夜「庄太郎」なのよねえ。これがびしっと決まる内容なら、
「夢十夜」の映像化ってもっとたくさんあった気がするんだけど。
以前「ユメ十夜」は見た。これはテレビで見たんだったかなあ。
四夜の山本耕史しか覚えてないや。しかもこんなに翻案?と思ったから不満だった。
これはたしか順番をバラバラにしてあったような……

黒澤明の「夢」は映画館で見たんだよな。でも内容は「夢十夜」とあまり関係ない。

……本の話じゃなくて、夢十夜の映像化の話になってしまった。
まあエッセイは普通に面白く読めました。

評論はねえ。わたし、漱石は評論に向かない気がするのよね。
などと言ったら怒られますか。読んでてだいたい理解出来なかった。
漱石は、こめんどくさい内容をちゃんとわかってもらおうとして、
どんどん説明がシツコクなっていくタイプの書き手。
一文一文はユーモラスでけっこう面白いんだけど、
理路整然とは真逆のベクトル。――まあ自戒をこめて。

あと評論の部に入ってるが、講演もわりと多かったね。
講演はさらにユーモラスになって、ほとんど落語みたいな口吻になるから面白いが、
内容はほとんど理解できません。
そもそも「中身と形式」「表現と道徳」なんてタイトルで話を聞きたくなる?
まあ本人も別にすごく伝えたい内容があるわけじゃないと思うよ。
頼まれたから出かけただけで。

「私の個人主義」だけはわりと名前を聞く文章なので、少し身を入れて読んでみたが、
そんなに大したこと書いてある気がしなかった。……多分読む人がちゃんと読めば(以下略)。

「初期の文章」というのは、病床の子規にロンドン留学中の様子を手紙で知らせた奴。
わたしはイギリスが好きなので、好きな漱石がロンドンで苦しんでいるのは読んでて辛いが、
もう少し肩の力を抜けば海外生活を楽しめたんじゃないのか……といつも思う。
他の海外へ行くよりイギリスが合いそうな気がする人なんだけどね。
むしろドイツとかだったら良かったのか?アメリカなのか?

さて。ちくま文庫版漱石全集はこれで終わり。
……これ以降は岩波の底本漱石全集13巻に移行する。
これが、読めるかどうかわからないシロモノなのよね。
なにしろ700ページとか900ページとかあるようなんだもの。
そして13巻はちくまで読んでもサッパリわからなかった文学論から始まります。
しかも英文学ですよー。
読んでダメならさっさと諦める。

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